こんにちは。
セガゲームス開発技術部の塚越です。
主に戦国大戦や三国志大戦などのサウンド制作を担当して来ました。
これまでのこのブログの記事ではプログラマやテクニカルアーティストの方の記事が多かったため、そちらに興味の強い読者の方が多いかもしれません。
またゲームに必要不可欠なサウンドであってもあまりサウンドデザイナーと関わることがなく、何をやっているのか知らないという方も居ることでしょう。
そんな方達にぜひ知ってほしい、ゲームサウンドクリエーターの役割を簡単に解説していきます。
サウンドクリエーターの役割
サウンドクリエーターには実は色々な役割があります。
その中からいくつかの例を紹介していきます。
- 世界観やビジュアルから音の方向性を考える
- 音楽を作る
- 効果音を作る
- 音声を収録して編集する
この他にも色々な仕事があり、ゲーム内容や部署による違いなどもありますが、サウンドクリエーターがどんなことを考えてどのように仕事をしているのか、少しでも知っていただければと思います。
1.世界観やビジュアルから音の方向性を考える
いきなりですが少し想像して見てください。
音楽や効果音があるゲームの世界観や映像の質感にあっていない場合どう感じるでしょうか?
音ばかり気になってしまってそのゲームに没頭できなかったり、主人公に感情移入できなかったり、ということが起こりそうです。
音楽や効果音、ボイスでプレイヤーの感情が動かされるものであって欲しいものです。
そのためには世界観や映像の質感などをきちんと取り入れた音になっていなければいけません。
いきなり本番のデータを作り始めるのではなく、プロデューサーやディレクタ、ビジュアルデザイナーと相談をしながらどのようなサウンドスケープ(音の風景)にしていくのかを考えいくのか、まずはいわば音のコンセプトを考えていくことが重要となります。
ゲームのジャンルや取り扱っている題材などで何が重要な音になるのかが変わってきます。
方法は実に簡単です。
スマホなどで製作中のゲームをムービーで撮影します。
その後Apple Logic Pro XやSteinberg Cubase ProなどのDAWアプリケーション(Digital Audio Workstation)で、そのムービーに試しに作った音を置いていきます。そうすることでどんな音が必要か、どんな音楽なら心が動くか、を探っていくことができます。
さらにそれをチームの皆んなで試聴してもらい意見を交わし、この提案と修正を繰り返して行きます。
またその中で、サウンド再生の仕組みを考えたり実験したりする際にはプログラマの助けが必要不可欠です。
少し時間がかかってしまいますが最初にこの作業ができるのとできないのとでは、仕上がりに差が出てくるのです。
このようなコンセンサスがないまま作り進めていけば、いびつでチグハグな音になってしまうのは想像に難くないですね。
2.ゲームのBGMを作るとは
最近のゲーム音楽はゲーム中とサウンドトラックで聴くのとでは違う場合があることにお気づきでしょうか?
実はゲーム中ではゲームのプレイによって状況が変化するのとともに音楽が追従し変化しているのです。
このような手法はインタラクティブミュージックと言ったり、アダプティブミュージックと言ったりしますが、言葉は違えどほぼ同じことを指しています。
BGMは聞く人にどういう気持ちになってほしいかをダイレクトに伝えることができる手段の一つです。
例えば『ファンタシースターオンライン2』を思い浮かべてみてください。
フィールドで敵が居ない時は静かな音楽ですが、敵と戦闘状態になると激しい音楽へと音楽的に自然に変化しますね。*1*2
この様にBGMは気持ちを切り替えていたり、場面転換を気づかせたりという役割を担っています。
これは昔のゲームであっても実は使われている手法で、制限時間が近くなると音楽が早くなったり、水で溺れそうになると違う音楽が流れたりしていました。
それが今ではとても音楽的で自然な流れで行われるようになったのです。
このため、作る曲の量はとても増えましたし、プログラマさんとの連携もとても大切です。
ゲーム中のどのパラメータが変化したら音楽をどの様に変化させるかという設計図をしっかり作るところからがゲームのBGMづくりが始まっているということなのです。
3.効果音を作る
効果音を作るのには大まかに2つの手法があります。
1. 現実にある音を使う
2. シンセサイザーで作る
現実にある音を作るには、現実にある音を使うというわりと当たり前と思われる手法を使います。
効果音の素材集の様なものを使ったりもしますが、フィールドレコーディングやフォーリーレコーディングをしたものを集めて使うこともあります。*3*4
現実にはない音を作るには、シンセサイザーを使って作るしかありません。
「プニョっ」とした音や、「ギュイーン」とした音など、想像でしかない音を効果音として形にします。
レーザー銃を想像してみてください。
実際本物のレーザーが「ビィーーーー」などと音はしませんが、ゲーム中では音がないと寂しいですよね。
ゲーム中の効果音には大切な音と、そこまで大切ではない音、全然大切ではないけど雰囲気を作る音がありますので、バランスを取りながら作って行くことになります。
※大切ではないからと言っていい加減な音は作りませんよ。
実際に音を作っていくプロセスを説明しますと
- 音のイメージを具体的に思い描く(頭の中で音を鳴らすイメージです)
- その音の要素を分解しDAW上でシンセサイザーや実際の音を使い再構築していく
という手順で作っていきます。
現実音に忠実な簡単な音は誰が作っても同じ音(近い音)になりますが、想像上の音や演出の入った音はとてもクリエイティブで、作るのに時間がかかります。*5
ディレクターやエフェクトデザイナと相談しながら作っていくことが多く、密なコミュニケーションが求められます。
4.音声の収録〜編集
近頃のゲームはスマホゲームでもよく喋りますよね。
この音声を収録したりゲームで使えるように編集したりするのも仕事です。
収録現場ではどの様な演技をして欲しいのかを声優さんに伝え、ゲームディレクターやシナリオライターが思い描いている演技に近づけるということもします。
それに加えてノイズが入ってしまっていないかなどを常にチェックしながら、台本も追って行くのでかなり気を使う仕事です。
ゲームの種類にもよりますが、5千〜数万のセリフを収録するのが最近では普通です。
こうなると何日もかかって収録することになりますので、演技のブレがないか、掛け合いがある部分に不自然さがないかなど確認することも多くなります。
また、ゲーム中でしっかりと聞こえる様にするために音量の調整をしたり、チェックを漏れたノイズを除去したりという編集作業があります。
ノイズが残ってしまうと、音量の調整でノイズが大きく聞こえてしまったり、不自然さが強調されてしまうため地味ですが大切な作業です。
近年ではiZotope RX6などのノイズ除去作業に優れたツールが出てきたため、少しくらいのノイズであれば演技重視でOKにしてしまうことも増えました。このソフトが出る以前のノイズ除去は波形を拡大してノイズ部分を特定し、全て手作業で修正するといった大変苦痛を伴う作業でした。
ですからなるべく収録現場でノイズを混入させずに収録するといったことが重要だったわけです。
まとめ
ここまで紹介した仕事以外にも多数の役割がありますが、長くなってきましたので今回はこの辺で終わります。なんとなくサウンドデザイナーの仕事をご想像いただけたでしょうか。
サウンドデザイナーはこれら全ての仕事を少人数で行なっています。また、ディレクターやデザイナー、プログラマーとの関わりをより強く意識する部門でもあります。
またサウンドは色々な感情(燃える、ドキドキする、爽快になる、優しい気持ちになる、暗い闇を感じる、など)と密接に関わっています。
サウンドデザイナーは自然に、時には主張して色々な感情を刺激する様に設計しています。
次にゲームをプレイする時には音に少し注目(注耳)してみてください。
(C)SEGA
*1:参考1:CEDEC 2012 2012年8月20日 Phantasy Star Online 2におけるプロシージャルBGMシステム
*2:参考2:CEDEC 2015 2015年8月27日 それからのPSO2BGM:プロシージャルを利用したオーダーメイドな場面表現・サウンドツールとプログラムの連携による簡略化
*3:フィールドレコーディング:簡単に言えば外に音を録りに行くことです。山奥や工場など色々なところへ出かけ目的の音を録音します。
*4:フォーリー:足音やものが当たる音をなどを専門に取ることができるスタジオを使った録音です。靴の質感や地面の素材などによって変化する足音を録ることができます。
*5:本当に現実音に忠実に音を作ろうとするととても複雑にレイヤーを重ねて周りの状況の変化に応じた変化を再現する様な作り方もありますが、とても大変な作業です。