はじめに
はじめまして。セガゲームスのモーションキャプチャーチームに所属している北川と申します。
業務内容としてはモーションキャプチャーエンジニアとしてワークフローの構築や収録オペレーターといったことをしています。(簡単にいうとモーションキャプチャーの撮影周り全般です)
モーションキャプチャーチーム内では、以下の三つの班に分かれて業務を行っています。
・撮影班:撮影~収録したマーカーデータの処理や小道具作成など
・エディット班:収録データのキャラクターへの流し込みと修正作業
・サポート班:上記の班をサポート
私はその中でも撮影班として収録業務を行っているので、今回はなかなか話をする機会のないセガのモーションキャプチャースタジオについてお話をさせていただきます。
セガモーションキャプチャースタジオとは
セガモーションキャプチャースタジオの歴史
セガは『バーチャファイター』(1993年発売)の開発時からと業界でもかなり早くモーションキャプチャーをゲーム開発に導入しました。
導入当初はモーションキャプチャーの専門チームとしては存在せず、2000年頃よりモーションキャプチャーチームとして部をまたがってプロジェクトをサポートするようになりました。
写真は過去のスタジオ写真の一部になります。スタジオも数回引っ越しをしていますし、使用しているシステムも様々な変化があります。
現在の所属はセガゲームスになりますが、セガ・インタラクティブ、アトラス、サミー、マーザ・アニメーションプラネットなどセガサミーグループの様々なプロジェクトに関わっています。
直近のタイトルでは以下のモーション収録に携わりました。
『龍が如く7 光と闇の行方』『東京2020オリンピック The Official Video Game』『新サクラ大戦』
『ファンタシースターオンライン2』『WCCF FOOTISTA』『Wonderland Wars』『けものフレンズ3』
『Fate/Grand Order Arcade』『艦これアーケード』『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』『キャサリン・フルボディ』
スタジオスペック
- カメラ:Vicon社 反射光学式カメラ 約100台
- 収録エリア:18m x 10m x 4m(横幅 x 奥行き x 高さ)
- 常設設備:壁面鏡・ワイヤーアクション用設備・チェック用大型モニター
過去のモーションキャプチャーを利用するタイトルがバーチャファイターシリーズをはじめとした格闘アクションだった事もあり、『シェンムー』(1999年発売)制作の頃から立体的なアクションの要求に応えるためワイヤーアクション用の設備を設置しました。
現在のスタジオではワイヤーアクションの為に天井からのH鋼を二本に増やすだけでなく、床内にワイヤー用の専用フックも設置してより複雑なアクションがとれるようになっています。
収録環境の工夫
リファレンス用のビデオ収録
反射光学式のモーションキャプチャーは収録しただけだとただの点データ(座標データ)になってしまいます。そうするとマーカーを付けていない部分の動きや表情などは収録することができません。
そのため、後作業で参考にするためにキャプチャー収録と同期をしてビデオを録画することが非常に有用になってきます。
昔はSD画質でも問題なかったのですが、指の表現や表情も撮影時のものを参考にすることが増えてきたことによってHD画質での録画の要望が高まってきました。しかし、要望の増え始めた頃はVicon社のキャプチャーシステムと同期してHDで録画するシステムは存在していない状況でした。
その話をモーションキャプチャーチームをサポートしてくれているプログラマーに話したところ、プログラマー同士の雑談から動画の処理に詳しい者がシステム作成に手を挙げてくれました。
そこからモーションキャプチャーチームの要望をヒアリングしたうえで、ハードの選定や録画・エンコードソフト、キャプチャーシステムとのリンク部分などを作成してくれました。
これによって国内でも非常に早い段階でHD画質でのリファレンス映像の収録環境を構築することができました。このシステムは今でも欠かすことのできないものとして運用されています。
社内のふとした繋がりによって当初想定していたより素早く期待以上の環境構築をすることができたと同時に、セガ社内の人材の厚さを実感しました。
リアルタイムプレビューのクオリティアップ
ビデオ収録でも触れましたが、収録したデータは座標情報のみとなり点と線の表示となってしまいます。そのため、MotionBuilderというソフトを同時に使用して確認用にキャラクターを動かす事が一般的です。
ただアクター(演者)さんとキャラクターとの体型の差などから不自然に動いてしまう場合も多々あり、エディット班では後処理を行う際にセガ独自のリターゲット方法を利用しており、アクターさんとキャラクターの動きの誤差を少なくすることで作業の軽減を図っています。
そこでエディット班とサポート班に協力をしてもらい、リアルタイムプレビューにも同様のリターゲットが行えるように改良を行っていきました。これによって収録をしている段階で動きの誤差が少なくなり、アクターさん・プロジェクトスタッフ双方のイメージの共有の齟齬が少なくなり再収録などのリスクも非常に低くなりました。
指の収録
最近では指の動きを収録する事例なども多く見かけるようになりましたが、セガでは2010年頃からボディと一緒に簡易的な指のモーションの収録も行うようになりました。
それ以前は必要に応じてグローブデバイスを使うなどしたこともありますが課題も多く、指は収録後にビデオやイメージを基にプロジェクトのモーションデザイナーが手作業で動かすことがほとんどでした。その手法だと数をこなしたり、自然な動きを再現するのに非常に時間がかかってします。そこで収録時のアクターさんの動きを体と一緒に収録できれば指の自然な表現ができるのではと実装に向けて検証を始めました。
検証当初は5本の指全てにマーカーを付けての収録など様々なテストをしました。しかし出来上がるクオリティとデータクリーンアップ作業の工数を鑑みて、親指・人差し指・小指の3か所のみにマーカーを付け、その動きを基に5本の指を動かすようにしました。これによって手の開閉タイミングや細かい動きのニュアンスも収録できるようになり、プロジェクトからも好評で今ではすべての撮影で欠かせないものとなっています。
導入当初はリアルタイムプレビューでは満足に動かすことができず、撮影後のデータ処理の段階で初めて動く状況でしたが、改良を重ね現在ではリアルタイムプレビュー上でも動かせるようになっています。
末端の動きではありますが開閉や指差しなどだけでも表情のように印象が大きく変わるので、特にダンスやイベントシーンの収録時にイメージ共有がしやすくなりました。
その他
小道具やセット
モーションキャプチャーの収録はカメラやソフトなどを見るととても複雑なシステムを使用しているように見えますが、実際の収録現場はアナログな作業が非常に多く存在しています。
生の動きであるアクターさんの動きをデジタルデータに変換するのがモーションキャプチャーです。なので、可能な限り演じやすく・ロスなくデータ化することが非常に重要になってきます。もちろんそのまま使用することはほとんどありませんが、だからこそその素材になる収録データはできる限りアクターさんの動きをしっかりと撮ることが最終的なクオリティにも貢献できると思っています。
収録しやすくなるように小道具やセットも可能な限りリクエストに応えられるように様々な準備を行います。演技しやすいように発泡スチロールや塩ビパイプなどを組み合わせて大きくても軽い小道具を作成したり、イメージに近くデータ収録に問題がないセットにするなど様々な工夫をして収録をしています。この部分は実際に現場で動きながら作業をするので、テクニカルなだけでなくADや大道具的な作業も行っています。
以下の画像はごく一部ですが、すべてチーム内のスタッフが作成したものです。よく見るとわかりますが、マーカーがついており小道具の動きも収録を行っています。収録したオブジェクトの動きもリアルタイムプレビュー上でしっかりと反映し武器などを構えた状態も確認できるようにしています。
様々な収録システム
モーションキャプチャーといっても様々なメーカーのいろいろな収録システムが存在します。セガのモーションキャプチャースタジオも当初から現在のViconのシステムではありませんでした。古くは磁気式といわれるものやVicon社以外のシステムを運用していました。
それらの経験は現在の収録にも活かされており、メインで使用しているシステムだけでなく他のシステムに関しても情報を収集したり撮影によっては他のシステムを運用したりしています。
例えばスタジオの広さが室内ではとても足りない場合や、収録をしたい環境(セットなど)を再現するのが困難な場合は持ち出して収録をすることができる慣性センサー式のシステム(Xsens MVN)を使用して収録を行ったりもしています。
また、映画製作で行われているパフォーマンスキャプチャーについても要望が高まっていることからフェイシャルキャプチャーやバーチャルカメラも同時に撮れる環境づくりを順次進めています。市販のものを購入するだけでなく、使い勝手を考え顔の動き・表情を収録するためのHMC(ヘッドマウントカメラ)や3DCG上のカメラを操作することができるバーチャルカメラを独自に作成もしています。
社内のスタジオとしてできるだけ多くの要望に応え、より良いものをプロジェクトに届けるべく様々な検証やサービスの展開を行っています。
最後に
今回はモーションキャプチャースタジオでの収録に関連した部分にスポットを当てて書いてきました。収録現場はPCでの作業もありますが、実際に自分が動いて対応をすることが多くあります。ビデオの収録やキャラを見ながらの確認などをしっかりと整備したことによって、イメージを共有しやすくしたり現場での撮影補助に集中することができるようになりました。動き回ることの多い現場だからこそ周辺のツールなどのありがたみを感じます。
写真:撮影班一同
モーションキャプチャーチームでは一緒にプロジェクトを支えるメンバーを募集しています。
興味のある方はぜひサイトにアクセスしてみてください。
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